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2022年度入学式 学長式辞全文

満開の桜が皆さんの入学を祝福するような、陽春まぶしい季節を迎えました。コロナ禍という困難な時代にもかかわらず、本日ここに2022年度入学式を挙行できますことは、私たち教職員にとって望外の喜びであります。

東京経済大学に入学された皆さん、おめでとうございます。本学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。本日から皆さんは、東京経済大学の学生として、新しい生活を始めることになります。

本学は1900年に赤坂葵町に創設された大倉商業学校を淵源としており、今年で創立122周年を迎える伝統校です。そのことを皆さんは大いに誇りに思ってください。しかし、本学の今日までの歩みは決して順風満帆なものではありませんでした。とりわけ、1945年5月の米軍の爆撃による赤坂校舎の焼失から、財閥解体に伴う創立者大倉家による支援の喪失、1946年の敗戦の混乱の中での国分寺への移転、そして大学昇格に至る4年間は、本学の歴史のなかでも最も苦しい時期でした。

新入生の皆さんも、本学にはこのような苦しい時期があったこと、そしてこの苦難の時期を教職員と学生、そして卒業生の一致団結した献身的努力によって乗り越えたことをぜひ覚えておいてください。

このような懸命の努力が実を結び、1949年4月、本学は東京経済大学として新しいスタートを切ります。専任教員17名、職員23名、学生416名のまことに小さな所帯でしたが、そこには清新の気がみなぎっていました。もちろん、その後も本学は幾多の苦難に直面しますが、他のどの大学よりも「大学らしい大学」となることを目標に今日までやってきました。

「大学らしい大学」の内容を一言で述べると、自由な学問研究を支えとして質の高い教育を行うことであり、この理念を透明性の高い大学の民主的運営によってしっかりと支えることです。そして、その内容に関して、もう一つ忘れてはならないのは、本学が自由闊達な学風のなかで教師と学生との間の人間的触れ合いを何よりも重視してきたことです。

本日は、このような本学の伝統と学風を皆さんにお伝えするために、また入学後の皆さんの学生生活の指針となることを願って、実業界で活躍された、そして現在活躍中の二人の卒業生が、本学でどのような学生生活を過ごされたかを紹介したいと思います。

最初の一人は、1957年に卒業され、最終的には日立キャピタルの社長・会長を務められた花房正義さんです。花房さんは、永野健二著『経営者』(新潮社、2018年)のなかで、私が尊敬する稲盛和夫、小倉昌男らと並んで、戦後日本を代表する18人の名経営者の一人として紹介されています。なお、この本は昨年新潮文庫の一冊として新しく出版されましたので、皆さんもぜひ手に取って読んでみてください。

花房さんは、高校時代に画家を目指し美術学校に入学するつもりで岡山から上京したのですが、やがて絵の才能に限界を感じ、進路変更を余儀なくされます。したがって、花房さんにとって、東経大への入学はそれほど希望に満ちたものではありませんでした。しかし、最初に受けた授業、すなわち実践経営学の碩学、山城章先生の講義に接し、花房さんは衝撃を受けます。

当時はまだ、経営学は経済学の一部とする見方があったなか、山城先生は個別経済学としてではなく、経営学を独立した学問として特異な方法論を熱っぽく講義されていました。これに感動した花房さんは、経営学を本気で学ぼうと決心し、その後山城ゼミに入り、研究室はもとより、ご自宅にも頻繁に出入りし、山城先生から様々な指導を受けます。当時を振り返り、花房さんは次のように述べておられます。

今振り返れば、非常に恵まれた形で、経営学を学ぶことができたといえるでしょう。思うに、ゼミに積極的に参加し、先生との深い交流を通じて物事の原理・原則を身に付けることは、学生にとって最高の財産になると思います。こうした財産は、会社に入ってすぐに役立つものではありませんが、しばらくしてから必ず価値が出ます。

私はこの花房さんの言葉には真実が含まれており、ぜひ皆さんにも実行してもらいたいと考えています。

次に、1980年に本学経済学部を卒業され、現在セブン-イレブン・ジャパンの社長を務められている永松文彦さんの学生時代を紹介します。

永松さんは、大規模大学よりも、先生や学生同士の距離感が近い環境で学ぶ方が、自分には合っていると考え、本学に入学します。そして入学後、その考えは間違っていなかったと実感するようになります。

永松さんの学問的関心は、そもそも経済とはどのような要素で成り立っているのか、経済は社会をどう動かすのか、経済は歴史とともにどのように変化してきたのか、というところにありました。このように経済・社会の全体像を把握するための学びを深めたいと考え、ゼミはフランス語版『資本論』の研究者として名高い江夏美千穂先生のゼミに入ります。当時を振り返り、次のように述べておられます。

ゼミでは、江夏美千穂先生のもとでマルクスの『資本論』を読み解き、「商品の物神的性格」における問題点、株式会社の資本集中などについて学びました。江夏先生は本当に学者らしい佇まいで、非常に深い見識を持ったお優しい方でした。週末に、ゼミ生数人で先生のご自宅に伺って色々と質問させていただいたこともあります。いま思い起こすと、当時の自分には吸収しきていなかった部分が相当あった気がしますが、あたたかくご指導くださった先生には本当に感謝しています。

また、この永松さんは、後輩の皆さんに「大学ではさまざまなことに挑戦すると思いますが、そのベースには学生の本分である『学び』を据えてほしいと思います」と述べておられます。私はこの永松さんの言葉にも真実が含まれており、ぜひ皆さんに実行してもらいたいと考えています。

皆さん、花房さんや永松さんのように、本学で「生涯の師」と仰ぐ先生を見つけ、尊敬しうる先生との人間的交流を通して自分の生き方を見つめ、学びを深めていってください。このことは、皆さんの大学生活を豊かにするのみならず、卒業後もきっと心の支えになります。

また、皆さんの大学生活を豊かにするうえで、学生同士の人間的交わりもとても重要です。ゼミはもちろん、体育会系クラブや文化系サークルに積極的に参加し、そのなかで一生付き合えるような親友をつくっていってください。親友というのは、たんに遊びのうえだけの友だちではなく、心の触れ合いのある、互いに自分の心が豊かになる、そういう関係です。
 
皆さんの前には大きな可能性が開かれています。私自身の経験からみても、大学時代の4年間は人生において最も自由で、最も実り多き時間です。本学での4年間で大いに学び、大いに交流を深め、「生涯の師」と仰ぐ人物を見つけ、互いに心が豊かになるような親友をつくっていってください。そして、122年の伝統を誇る本学の歴史をさらに一歩前進させる事業に共に取り組んでいきましょう。

以上、皆さんの本学での生活が充実したものとなることを願って私の式辞といたします。

2022年4月1日 東京経済大学学長 岡本英男